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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)3124号 判決

控訴人 山梨県信用組合

理由

一、本件土地が被控訴人の所有であるところ、この土地について被控訴人主張のような根抵当権設定登記がなされていることは、当事者間に争いがない。

二、控訴人は「被控訴人は本件土地に根抵当権を設定することを承諾し、古屋武夫に実印を交付して根抵当権設定契約締結のための代理権を与えたものである」と主張するので、まずこの点につき判断するのに、(証拠)を総合すれば、つぎの事実が認められる。

昭和三四年五月頃、古屋武夫と宮沢文武とは、両名が共同経営をしている有限会社古屋木工の事業資金にあてるため、以前から宮沢及び古屋木工と取引があつた控訴人から金融を得ようとしたが、それには担保物件を要するので、両名は、古屋武夫の妻の弟でこれまでも古屋に資金上の援助をしていた被控訴人に対し、その所有土地を担保に供するよう依頼し、その同意を得、その後古屋武夫は被控訴人から権利証が見当らないから保証書で登記するようにといつて、印鑑の交付を受け一切の手続を一任された。

他方、宮沢と古屋は控訴人の専務理事田村慶治に金融をしてもらいたいと申込み、田村は両名を同道して被控訴人が担保に供するという本件土地を検分のうえ一〇〇万円の限度で金融することを承諾し、同月上旬中控訴人の本店で貸付課長石原雄次と宮沢、古屋とが話合い、控訴人においては従来の取引状態を考慮し、主債務者は古屋木工でなく宮沢とすることを求めたので、宮沢、古屋は宮沢を主債務者として借受けた金員を古屋木工の資金に充てることとし、結局債務者宮沢、連帯保証人古屋武夫、連帯保証人兼根抵当権設定者被控訴人とする債権極度額一〇〇万円、利息日歩四銭以内、遅延損害金五銭等の内容を有する根抵当権付手形取引契約を結んだ。そして、その旨記載された(ただし各人の署名を欠く)根抵当権設定手形取引契約書用紙に一〇〇万円の文字を記入し、これと根抵当権設定登記申請のための控訴人白紙委任状を宮沢に交付し、同人は同月一一日司法書士鎌倉昭二に登記に必要な書類の作成及び登記申請の手続を依頼した。

そこで鎌倉は、右契約書に宮沢、古屋被控訴人の名を記入し、宮沢、古屋の名下に各本人に捺印させ、被控訴人の名下には古屋に前記保管中の被控訴人の印をおさせ、契約書を完成し、さらに司法書士林元扶に依頼して本件不動産の保証書を作成してもらい、自己を代理人とする控訴人及び被控訴人の根抵当権設定登記委任状及び土地抵当権設定登記申請書を作成し、別に古屋をして被控訴人の印鑑を使用してその印鑑証明書をとらせておき、以上の書類を使用して本件登記手続を申請したのである。

以上のとおり認められるのであつて、原審及び当審における証人古屋武夫及び被控訴本人の供述中右認定と異なる部分は信用し難い。

以上認定の事実によれば、被控訴人は古屋武夫、宮沢文武が古屋木工の資金を控訴人から借受けるにあたり、自己所有の本件土地を担保に供することを承諾し、古屋に自己の実印を交付し、担保提供に必要な手続の代理権を同人に与え、同人はその権限に基ずいて控訴人に対し被控訴人の代理人として根抵当権を設定し、かつ鎌倉昭三に登記申請を委任したとみるべきである。もつとも、被控訴人が宮沢が主債務者となることを承諾していたと認める証拠はないが、被控訴人は古屋木工の資金の融通を受けるについて担保提供を承諾していたのであるから、前認定の事情で主債務者を宮沢としても、その承諾の趣旨に反するものではないと解すべきである。また、被控訴人が連帯保証人となることについても承諾していたと認むべき証拠はないが、前認定のとおり根抵当権設定契約が、その代理人古屋武夫により適法になされている限り、右契約及びこれに基ずいてなされた本件登記の効力に影響を及ぼすものではない。

それゆえ、連帯保証契約及び根抵当権設定契約の無効を理由として、本件登記が無効であるとする被控訴人の主張は採用できない。

三、つぎに被控訴人は本件土地の権利証は自ら所持しているのに、控訴人は宮沢と通謀してこれが滅失したと称して保証書を作成して本件登記手続をしたもので、本件登記申請は本来保証書によつてなすことができない場合に、保証書によつてしたことになるから違法であり、右登記は無効であると主張するが、登記申請に際し権利証または保証書の提出を必要とするのは、登記義務者として登記を申請する者が本人であることを確認し、真実の登記義務者でない者が本人であるように装つて不実の登記申請をすることを防止する手段に過ぎないから、たとえ権利証が存在するのに保証書を作成し登記申請がなされても、その申請に基ずいてなされた登記を無効とすることはできない。

四、そうすると、本件根抵当権設定登記が無効であるとしてその抹消を求める被控訴人の本訴請求は失当であり、これを認容した原判決は取消を免れない。よつて、民事訴訟法号三八六条により原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却。

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